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第129話 “なんでもない”が、増えていく

last update publish date: 2026-09-05 13:00:04
 その日の午後は、やけに長く感じた。

 数字の並んだ資料を眺めながら、私は何度も同じ行を目で追っていることに気づく。

(……集中しなきゃ)

 なのに、頭の片隅から離れないのは、瑠奈の言葉だった。

──昨日より、顔色いいです。

 自覚はなかった。

 でも、否定できなかった。

「中谷さん」

 会議室で、平田さんが私の名前を呼ぶ。

「ここ、どう思います?」

「……あ、はい」

 慌てて資料に視線を戻す。

 距離は、ちゃんとある。

 仕事の話だけ。

 余計な言葉も、視線もない。

(……なのに)

 胸の奥が、少しだけ落ち着かない。

 会議が終わり、解散の空気になったとき。

「中谷さん」

 また、平田さんの声。

 今度は、ほんの少しだけトーンが低い。

「さっきの提案、助かりました」

「いえ……こちらこそ」

 それだけの会話なのに、心拍数が上がる。

(“なんでもない”はずなのに)

 デスクに戻る途中、スマホが震えた。

 田中美鈴からだ。

『今日、夜空いてる?』

 私は、画面を見つめたまま立ち止まる。

(……美鈴に、話したい)

 でも同時に、言
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